ぐうたらな魚


5月11日(日)

 『ソロモン流』を見た。この番組を見るのは初めてだ。何故、見る気になったか。それは、今回取り上げられた人物が画家・木梨憲武だったからだ!

 時にシュール、時にドS、縦横無尽にボケまくるノリさん。コントで数多のキャラを演じるノリさん。数多くのものまねレパートリーを誇るノリさん。歌が上手いノリさん。相方のタカさんをして「才能じゃアイツにはかなわない。」と言わしめるノリさん。そんなノリさんの多才さは知っていたが、アート面でのノリさんのことは今まで知らなかった。

 自らのアトリエで作業中の抽象画家としてのノリさんは、バラエティに出演している時と変わらず、自然体で、笑顔が絶えない和やかなムードでキャンパスに向かう。かと思えば、突然厳しい顔になり、芸術家の苦悩も垣間見せる場面もある。次から次へと溢れ出るイメージとひらめきを自由奔放に己の筆に乗せてキャンパスに鮮やかに描いていく。個展の準備中には、絵の配置に試行錯誤し、配置が終わると、何かに取り憑かれたように絵を飾る壁にまで筆を走らせ、展示スペース全体をクリエイトしていく。

 絵を描くのは何もアトリエや美術館の中だけではなく、この番組で紹介するためにノリさん行きつけの喫茶店を訪れた時には、突然思い立ったようにテラスに出て行き、そこから見える街の景色を40分かけて一気にスケッチし、完成した絵を惜しげもなくその喫茶店に提供し、壁に飾ってしまった。ほかにも様々なノリさん行きつけの飲食店にはノリさんが描いた絵が飾られている。ロケの合間などにもよくスケッチをするらしく、彼曰く「ひまつぶし」なのだという。こういうスタンスがあのクリエイティビティーの秘訣なのかもしれない。

 そして、肝心の木梨画伯の絵はというと、まず目に付くのがその色の鮮やかさだ。そして配色のバランス感覚は計算というよりは感覚的なもののように思える。筆を走らせているノリさんを見ていると、どうもこの人は感情と筆がそのまま直結しているタイプの人なんだなぁという気がする。何でも思いついたものを自由に描くというのは簡単なようで実は難しい。コメディアンとしても直感と本能で突っ走るノリさんらしい絵の描き方だと思った。

 俺もこんな大人に、男になりたいなぁ。何か一つでも、損得勘定無しで打ち込めるもの、一生かけて取り組めるもの、自分の存在を確認し、他人と感情を共有できるもの、他人と自分自身に刺激と発見を与え続けるもの、そいういうものを持ちたいと思う。俺にとってのそれが音楽なのかは今のところはわからないけれど、音を鳴らせばそこに俺は居る。今はとにかく音を鳴らすんだ。野球はバットを振らなきゃ始まらないし、絵は筆を取らなきゃ始まらないんだから。

 ノリさんの作品4点の写真とノリさんの個展『木梨憲武 色の世界展』の情報が番組ホームページに掲載されています。行きたいなぁ、個展。でも京都かぁ・・・、福岡にも来ないかなぁ。
http://www.tv-tokyo.co.jp/solomon/back/index.html


5月12日(月)


 押井守監督アニメーション作品『迷宮物件 FILE538』を観た。これは『トワイライトQ』というオムニバスOVAのうちの1本で、原案・脚本・監督を押井さんが担当した、1987年の作品。

 実はこの作品を観るのは初めてだったのだが、予想以上、期待以上の衝撃が俺を貫いた!!思考の彼方へと観る者をいざなう“押井節”全開の畳み掛けるような台詞の応酬、フィックス長回しの緊張感溢れるカメラワーク、光と影を強調した斬新で美しい映像、どれをとってもまさに押井ワールド!

 作風が近い作品を挙げるなら、『機動警察パトレイバー 劇場版』や『天使のたまご』、そして『うる星やつらビューティフル・ドリーマー』などだろう。しかし、この作品はそれらのいずれとも違った独特の雰囲気を持っており、押井さんお得意の“虚構と現実”というテーマを主軸に据え、観る者を幻惑し、混乱させつつも、ある種のカタルシスを与えるというストーリー・テリングの巧妙さは他の作品に全く引けをとらず、むしろ30分という短い時間でそれをやってのけたこの作品は隠れた傑作と呼ぶに相応しいだろう。

 物語の重要な鍵を握る少女(といっても鼻水を垂らし、寝小便をするくらいの小さい子供)が非常にかわいい。丁寧に描かれた少女のコミカルな動きと兵藤まこさんによって演じられる純真無垢な声が素晴らしい。この少女の正体がまた驚愕すべきものなのだが、それは観てからのお楽しみだ。

 そして単純に映像のクオリティが高い。劇場版クラスと言っても差し支えない美しさだ。具体的な映像技法について細かく言うと、どこまでも細かく語れてしまうが、この凄さは観た者にしかわからない。

 観終わった後に思わず独りで拍手してしまったくらいだった。鳥肌が立ち、心臓が激しく鼓動した。そして翌日も続けてこの作品を鑑賞したのだった。こういう心揺さぶられる作品にこれからどれだけ出会えるだろうか。

押井 守 INTRODUCTION-BOX (期間限定生産) [DVD]

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