アキレスは亀に追いつくのか
http://www.office-kitano.co.jp/akiresu/
感情表現を極力控え、静かに、冷淡に物語が進む、という北野映画のイメージからはかけ離れた作品になっている。特に顕著なのが音楽の使い方で、泣ける場面には泣ける音楽が思いっきり鳴っている。あまりにストレートな演出なので、何回も涙ぐんでしまった。ヤラレタ。
泣くばかりではない。笑えるシーンもたくさんある。俺以外のお客さんは中年男性ばかりだったが、彼らの多くが声を出して笑うということが何回もあった。俺も笑いが止まらなかった。「“笑い”って悪魔的でさ、何かを一生懸命真面目にやっている人ほど滑稽に見えちゃうことがあるんだよね。」という北野監督の言葉通り、新しい芸術を生み出そうと試行錯誤する主人公の必死な姿は大いに笑いを誘った。
物語については詳述は避けるが、『HANA-BI』のそれをはるかに凌ぐ膨大な数の挿入画はとてつもない存在感を持って映画の中に登場するということは強調しておきたい。もちろんこれらは全て北野画伯自らの筆によるものだ。数え切れないほどの北野画伯の絵画を鑑賞できるというだけでも、この映画は観る価値があると思う。
これまでの北野映画を例に出してこの映画を表現するなら、「『あの夏、いちばん静かな海。』と『HANA-BI』と『監督・ばんざい!』をミックスして、それを『座頭市』並みにわかりやすくまとめ上げた映画。」だろうか。そんな例えは無意味だが。
これからこの映画を観る人に、「この映画はどんなテーマを扱ってるの?」という野暮な質問をされたら、野暮は承知で俺はこう答えるだろう、「芸術とは何か。良き理解者とは何か。愛とは何か。何のために生きるのか。死とは何か。」と・・・。愛・生・死は北野映画のほとんどに共通するテーマだが、それに加えて今作では特に“芸術”に対して真正面から向き合っているという印象を強く受けた。自己批判、自虐、懐疑、諦念、不安、負い目などが随所から滲み出ていて、ある意味痛々しくもあった。
「アフリカで飢えてる子供の前にピカソの絵とおにぎりを並べたら、おにぎりを取るに決まってるだろう。」
「天才なんて、それを認めてくれる人がいなかったら、天才とは呼ばれない。」
「狂ってる!人間じゃない!」
「あいつら、芸術わかんねぇんだよ。」
ひとりの人間、ひとりの表現者としての“北野武”の苦悩と絶望と希望がギッシリ詰まった映画だ。
そして、男女の恋の物語であり、家族の物語であり、夫婦の物語でもある。
この映画を見て希望を抱くも良し、疑問を抱くも良し、ただ泣くも良し、ただ笑うも良し。いい映画とは、観る人の心の数だけ答えがあるものだ。
Taratine
ZAZEN BOYSの待望のニューアルバム『ZAZEN BOYS 4』が届き、聴く。NUMBER GIRL以来久しぶりの向井さんとデイヴ・フリッドマンのタッグで生み出した作品だ。となると、当然ドラムサウンドは・・・最強!そして楽曲の雰囲気はこれまでの作品とは全く違うものになっている。より洗練されつつ、さらに自由に、さらに凶暴に、さらに知的になっている。
痺れた。痺れたのは座禅を組んで聴いていたからではない。
間違いなくこのバンドはロックミュージックの最先端にいる。そしてその進化は向井さんの感性だけではなく、数々の偉大な先人達の音楽の上に成り立っている。もうレッド・ツェッペリンはいなくても、現代にはZAZEN BOYSがいる。
言葉で音楽が説明できたら、音楽なんて必要ない。説明できる音楽なんかに価値は無い。このアルバムには価値がある。日本に生まれてヨカッター!!
名案だ。
先週の金曜日、『スカイ・クロラ』を観に行った。これで4回目だ。今回はなかなか良い設備の整った映画館で観ることが出来たので良かった。
3回目までに気づかなかった所にいくつか気づいた。それは物語の構造的なものや画作りの面での発見だった。そして好きなシーンをもっと好きになった。
今回は観客が20人と、平日にしては多めで嬉しかったのだが、また今回もエンドロールの途中で席を立つ人間が3人もいて、「バカだなぁ。」と思った。映画にとって1秒でも無駄な映像は無いと思うんだがなぁ。
福岡に戻ったらもう1回くらい観に行きたいと思う。
今年のヴェネチア国際映画祭には押井守、北野武、宮崎駿の“日本三大映画監督”の作品が揃って出品されたのだが・・・
<第65回ヴェネチア国際映画祭にて『スカイ・クロラ』は、主要賞は逃したが特殊効果を用いた作品を対象とする「フューチャーフィルムフェスティバル・デジタル賞」に選ばれた。
日本映画ではほかに宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』、北野武監督の『アキレスと亀』が出品されていたが、これらはどれも主要賞を逃している。一方で『崖の上のポニョ』は、イタリアの映画雑誌「CLAK」が選ぶ観客賞と、ミンモ・ロテッラ財団(イタリア芸術財団)賞を受賞。『アキレスと亀』は、イタリアの映画雑誌「フィルムクリティカ」が選ぶ「バストーネ・ビアンコ(白いつえ)賞」を受賞した。>
ということで、残念。しかし、幸いなことに、この三人は名誉や金に執着するような人間ではないので、これからも自分の納得のいく作品を世に送り出していってほしい。
フーコ=スイト
テレビ東京系にて絶賛放映中の『ケータイ捜査官7』。
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』が絶賛公開中の押井守監督が担当した回が2週連続でついに放映。ぜひご覧ください。
■8月27日(水)19:00〜19:26
第19話「圏外の女」前編
■9月 3日(水)19:00〜19:26
第20話「圏外の女」後編
監督・脚本:押井守
出演:窪田正孝、安藤麻吹、須藤雅宏、河本邦弘 他
あらすじ: スクーターに乗って、ふらりと一人旅に出たケイタ。
その道中、お七(安藤麻吹)と名乗る不思議な女性に出会う。素性どころか本名すら明かさず、掴みどころのない奇妙な言動をするお七と食事をすることになったケイタ。驚くほど大量の食事を注文し、それをぺろりと平らげた彼女は、金も払わずケイタの前から忽然と消える…
http://ani.tv/k-tai7/
ということで、ようやく押井さんが監督した初のテレビドラマが放送される。気になるヒロインは『スカイ・クロラ』ではフーコの声を演じた女優/声優の安藤麻吹さん(洋画の吹き替えで大活躍しておられるのでみなさん彼女の声を一度は聞いたことがあるはず)。彼女が演じるのはどんな女性なんだろう?楽しみだ。
カンヌにヴェネチアにと引っ張りダコのアニメ作品に比べて、マニアックで難解なものが多いとされる押井さんの実写作品。しかし、今回は仮にもゴールデンタイムのテレビ番組であり、しかも子供もたくさん見ているであろうドラマなのだから、きっと楽しい作品になっていることだろう。そしておそらく、脚本も自ら書いたということは、やはり“押井ギャグ”もしくは“押井節”が登場し、我々を笑わせてくれることは間違いないだろう。いずれにせよ、“世界の押井”が久しぶりにテレビに帰ってきたのだから、見逃す手は無い。
魔の巣
先週、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』を長野市に観に行った。これでこの映画を観るのは3回目である。夏休みだからなのか、劇場は超満員で、危うく立ち見になりかけ、補助椅子に座って鑑賞することになった。スクリーンの大きさ(小ささ)、そして何より音響環境の悪さはすさまじいものがあったが、やはり良い映画は良い。1回目とも2回目とも違う映画として俺の目に映り、脳裏に焼きついた。一緒に観に行った兄も非常に強い感銘を受けたようだった。
4thアルバムの発売を来月に控えたZAZEN BOYSの新曲『WEEKEND』のPVが公開されている。これに先駆けて公開された新曲『Asobi』がシンセサイザーとサンプラー中心のサウンドだったのに対し、この曲はエレクトリック・ギターが冴えまくり最高にカッコイイのだが、さらに注目すべきはその映像だ。このPVはまさに監督・向井秀徳の最高傑作と言っても過言ではない作品に仕上がっている。メンバーの演技も素晴らしい。ということで、ますます9月17日の発売日が待ち遠しくなる一方だ。
高画質でご覧になりたい方は公式HPへ
http://www.mukaishutoku.com/main.html
JAZZMASTER VS STRATOCASTER
汗の季節。1年に1回ペースのOOPARTSライヴの季節。今年もやってきた。
今回はNDKも出る。NDKではうちのドラマー、つまり俺の兄がギターを弾いている。しかし、涎ともOOPARTSとも音楽性はかなり異なる。
http://www.myspace.com/ndk4men
8/30(sat)上田 Live House #break (長野県上田市国分548 )
NDK&GoM共同企画[THIRDorFINAL]
Open.16:00/Start.16:30 ¥500
出演バンド:
NDK
GoM
HOT BITCH'S MARIE
Tw!nkl
RED TAILV
OOPARTS
http://www.livehouse-break.com/index.html
OOPARTSは去年やらなかった曲をやるかもしれないし、去年使わなかったギターを使うかもしれない。時間さえ許せば8曲はやりたいのだが、おそらく無理だろう。
いつの日か、20曲くらい演奏するライヴをしてみたいものだ。しかもその会場が明治か大正に建てられた木造校舎もしくは擬洋風建築だったならば、思い残すことなく死んでしまいそうだ。
あなたを待っていたわ。
『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』を友人と一緒に観に行った。俺は試写会で1回観ているので、これで2回目になる。
1回目の時とは比べ物にならないほど感情を揺さぶられた。心臓が激しくビートを刻むのを感じた。涙が出そうになった。一人で観ていたら涙は何のためらいもなく流れ出ていたかもしれない。
これまでの押井作品とは一線を画した極めて感情的な映画なんだということを強く実感した。ストーリー面はもちろん、音楽の使い方に著しく押井さんの“これまでの手法とは違う”演出の意図が色濃く反映されているように感じた。
映画には2種類ある。初めて観た時から観る回数を重ねるごとに感動が薄れていく映画と、観るたびに新しい発見があったり別の見方ができるようになっていく映画だ。言うまでもなく『スカイ・クロラ』は後者である。
1回目観た時に見えなかったものが見え、感じなかったものを感じ取ったからこそ、今回は胸をえぐられるような感覚を覚えたのだろう。だけど、この想いはいくら説明しても、言葉で言い尽くせるものじゃない。
同じ映画でも、前回見えたものと、今回見えたものは違う。だから、何度でも観る必要があるんだ。また観たいと思えるうちは。
「昨日と今日は違う
今日と明日も きっと違うだろう
いつも通る道でも 違う所を踏んで歩くことができる
いつも通る道だからって 景色は同じじゃない
それだけではいけないのか
それだけのことだから いけないのか」