胡蝶之夢

音楽専門チャンネルMUSIC ON! TVで放送された『タテタカコ Special vol.4』という番組を見た。初のDVD付きライヴ盤『羊・狼』の発売を記念して放送された特番である。

もう説明する必要は無いと思うが、タテタカコさんは長野県飯田市出身・在住のシンガーソングライターである。

今まで俺がさんざん言ってきたことだが、タテさんは尊敬に値する表現者の一人だ。タテさんが「人にかっこよく見られたい、と自分は思ってるんじゃないか・・・」と口にするのを何回も聞いたことがある。彼女は常に自分自身に厳しく、“音楽の本質”や“何のために歌うのか”という命題について自問自答し続けているように思う。彼女が女の命である髪をバッサリと、否、ジョリジョリと刈り、丸坊主になった理由を「襟足を伸ばす髪形が好き過ぎて、自分が髪にのり移ってしまうんじゃないかと思ったから。」と語っていた。これは「自分の見た目ばかりに気を取られてちゃいけない。」という気持ちの表れなのだろう。俺にはそこまでする勇気は無い。

金でも名誉でも虚栄心のためでもなく、純粋に、音楽を楽しみながら、ありのままの人の心、ありのままの己の心をピアノに乗せて歌う。誰よりも真っ直ぐに、澄んだ強い眼差しで。

ブルーズマンがギター1本で悲しみを歌うように、タテさんはピアノ1台で心を歌う。

タテタカコ 道程



「テレビに出たい。モテたい。売れまくりたい。いい家に住みたい。有名になりたい。金持ちと結婚したい。」などという煩悩を腹いっぱい抱えて、自分以上のものを出そうと必死に着飾り、当たり障りの無い薄っぺらなキレイゴトを並べた歌を歌っているような人たちに俺は興味は無い。ミリオンセラーや紅白歌合戦が目標だなんて言っている人たちを“アーティスト”なんて呼んでもらいたくはない。“音楽製造職の人”とでも呼ぶべきだ。

流行とニーズを読み、時代に合わせた音楽と歌詞を作り、あらゆる戦術を駆使し、曲の宣伝をすれば、ヒットチャートに名を連ねることは難しくないことは誰の目にも明白だ。市場調査、アンケート、そんなものに操られて音楽を作ることが芸術であるはずが無い。

相互間の関わりは無いとは言わないが、産業と芸術は同義になってはいけない。