空から猩猩が降ってきた

3月4日(火)

 『風の谷のナウシカ』を4年ぶりくらいに観た。このDVDにはオーディオコメンタリーが収録されているのにまだ聞いていないことに気付いたからだった。

 コメンタリーは原画で参加した庵野秀明氏と演出助手として参加した片山一良氏が当時を振り返り、製作の裏側を語るという興味深いものだ。二人とも宮崎監督の本性やこの作品の反省点などの濃い話をしてくれているので非常に楽しく鑑賞することができた。

 この二人も言っていたように、確かに説明的な台詞が多すぎると感じた。最近は押井監督や北野監督の映画ばかり観ていたからだろうか、「そこまで言わなくてもいいのに。」と思う箇所が気になって仕方が無かった。とはいえ、素晴らしい映画であることには変わりない。

 この作品の1ヶ月前に公開された『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の押井監督はこの『ナウシカ』VS『ビューティフル・ドリーマー』=“宮崎VS押井バトル第1戦”において、勝利を確信したという。もちろん興行成績の話ではない。押井さんは「宮さんも古いタイプの映画を作ったもんだ。」と当時感じたのだという。第2戦は『イノセンス』と『ハウルの動く城』の対決だったが、これについて押井さんは「お互い似たような映画を作った。」という趣旨の発言をしているだけで勝ったとも負けたとも言っていない。そもそも、双方とも勝ち負けを気にしているわけではなく、ある種の深い因縁を感じ合い、お互いにどういう映画を放ってくるのかを楽しみにしているという感じだろう。

 そして今年、とうとう第3戦の時がやってくる。『スカイ・クロラ』と『崖の上のポニョ』が同時期に公開予定である。これまでどおり最新のCG技術を取り入れアニメ表現の限界に挑みつつ、これまでに築き上げた自らの演出手法を排して臨むという押井さんと、CGを一切使わず、アニメの原点である手書きにこだわって製作を進める駿さんの対決に全世界が注目している。私も注目している。


3月5日(水)

 『天空の城ラピュタ』を観た。これも4年ぶりくらいに観た。

 やっぱりロボット兵がかっこよくて、切なくて、一番存在感がある。主である人間さえ間違いを犯さなければ優しいロボットさんでいられるのだ。いつだって悪いのは機械じゃない。悪いのは兵器じゃない。戦車だって、銃だって、日本刀だって、たとえ殺傷目的で作られた物であっても、その美しさを否定することは誰にもできない。醜いのはいつも人間の心。美しさを感じられるのも人間の心。


 そういえば、私は押井監督の映画は1年に3回は観たくなるが、宮崎監督の映画はそこまで短い間隔で観たいとは思えない。これは何故か。好みも関係あるだろうが、そもそも宮崎監督が「映画館で1回観て、子供たちがいい体験ができればそれでいい。ビデオも本当は出したくない。」という宮崎監督と「いい映画の条件は何回も観たくなるということだ。自分の映画も観てもらえるなら何回でも観てほしい。」という押井監督のコンセプトの違いが大きな要因になっているのではないだろうか。

 常に子供の目線を意識して幅広い年齢層に受け入れられる映画を作る宮崎監督と、子供の目線を気にしないどころか大人にもわかり難い映画を作る押井監督、というイメージが一般的にあると思われるが、今回、押井さんは「初めて自分より若い世代に向けて映画を作る。」と宣言しているので、もしかすると興行成績の面でもポニョを凌ぐ・・・かも?