トランキライザー

 今週の『金曜ロードショー』で『風の谷のナウシカ』が放送される。

 「なんどめだナウシカ」という文字がドラマ『TRICK2』で登場するほど、この作品は金曜ロードショーで何度も放送されている。これまでに何回放送されたかというと計12回で、放送回数は歴代第1位らしい。そして今回が13回目ということだ。何度目だナウシカ

 ナウシカだけではなく、ジブリ作品は放送回数が非常に多く、代表作は2年に1回は放送されるほどだ。これはなぜかというと、日本テレビジブリ作品の独占放映権を持ち、製作委員会に名を連ねる出資者であり、映像ソフトの売り上げが日本テレビの利益に繋がるからである。そして、ジブリ作品を放送すれば確実に高い視聴率を稼げるというのも大きな理由だろう。

 しかし、これでいいのか?大袈裟かもしれないが、これこそが日本人の多くが持つ「大人にも通用するアニメはジブリだけで、残りはオタク用と子供向けしかない。」という誤った認識の元凶なのではなかろうか?地上波のゴールデンタイムに放送されるアニメ映画といば『ドラえもん』、『クレヨンしんちゃん』、『名探偵コナン』くらいしかない。このため、これら以外の数多くの素晴らしいアニメ映画を人々が新たに知る機会が著しく少なくなってしまっているのではなかろうか?俺だって、ケーブルテレビに加入してBSやCSで放送された作品を観るまでは“押井守”も“今 敏”も知らずにいたのだから。


 そこで、日本テレビ提携作品である押井守最新作『スカイ・クロラ』の公開を記念して、そして宣伝のために、押井守作品を金曜ロードショーで放送してみたらどうだろうか。

 『イノセンス』は日本テレビ提携作品で、しかもスタジオジブリが製作協力をしているので、金曜ロードショーで放送するのにはうってつけ・・・かと思ったが、作品の内容からして、視聴率面を考慮すると、日本テレビが首を縦に振るとは思えない。第一、この前作に当たる『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』を観たことのない人には、哲学的なテーマと故意に難解にしてある台詞と相まって、ますます意味不明の映画だと思われてしまう恐れがある。

 では、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』ならどうか。この作品ならば「あの『マトリックス』をはじめ、多くのハリウッド映画に影響を与えた・・・」や「アメリカではビルボード誌のビデオ週間売り上げ1位を記録した・・・」などの売り文句を添えれば、欧米カブレやハリウッドカブレのミーハー日本人たちへの強力なアピールになるだろう。ちょうど6月20日には金曜ロードショーで『マトリックス リローデッド』も放送されることであるし。しかし、大人はともかく、子供にとっては恐らく全く理解できない映画でしかないだろう。

 ならば、『風の谷のナウシカ』の1ヶ月前に公開され、ナウシカと共に業界に多大な影響を及ぼした『うる星やつらビューティフル・ドリーマー』ならばどうか。『うる星やつら』という名前だけは世間に浸透しているようなので、そこを取っ掛かりにしてディープな押井ワールドを知ってもらうというのも、なかなか良いではないか。絵柄だけなら一見子供にも受け入れられそうであるし。しかし、不安要素を挙げるなら、劇中に登場する文化祭の催し物“純喫茶 第三帝国”とハーケンクロイツ(鉤十字)のシンボルだ。海外ではこのナチスを連想させる(というかそのまんま)表現を嫌う国もあると聞くが、日本ではどうなんだろうか。

 そうなると、『機動警察パトレイバー』の劇場版2作品を2週に渡って放送するというのが一番無難かもしれない。1作目の通称“パト1”ではコンピューター・ウィルスを使ったテロ、2作目の通称“パト2”では東京の街を舞台にした戦争が描かれており、非常にメッセージ性に富んだ作品である。特にパト2は9.11テロ、地下鉄サリン事件自衛隊イラク派兵など、この作品の公開後に起こった実際の事件を予見するかのような内容であり、“ハイテク戦争”や“モニター越しの戦争”といったテーマが描かれているので、現代日本人にとっては考えさせられるところの多い映画であることは間違いない。さらに、パト1は押井さんの作家性とロボットアニメとしてのエンターテインメント性の両立がなされている作品なので、子供にとっても楽しんで観ることができる作品であるに違いない。

 ということで、結論。パト1とパト2を放送すべきだ!日本テレビ様、どうか英断を!

 で、ナウシカは観ようかな〜、どうしようかな〜。この間観たばかりだしな〜。好き嫌いは別としても、宮崎作品はどうしても連続して何回も観る気にはなれないのだ・・・。でも観てしまうんだろう、きっと。