My Neighbor Motoko/となりの素子2.0

7月16日(水)

 洋画とオーディオビジュアルに詳しい友人と一緒に『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0』を観に行った。意外とお客さんが多くて嬉しかった。そしてエンドロールが流れ始めても席を立つ人がほとんどいなかったのはもっと嬉しかった。皆さんもこの機会に新しく生まれ変わった攻殻をぜひ劇場で体験してみてください。

 映画館を後にし、その友人のお宅にお邪魔した。話には聞いていたが、想像を超える豪邸だ。まさに不動産ビバリーヒルズ族・・・。螺旋階段、吹き抜けなど、お宅拝見番組の中でしか見たことのないものが目の前に広がっていた。それは置いといて、52型液晶ハイビジョンテレビと5.1chサラウンドシステムでリドリー・スコット監督作品『ブレードランナー』のブルーレイディスクを鑑賞した。ブルーレイを大画面&サラウンドで鑑賞するのなんて生まれて初めてだった。む・・・、この環境で押井さんの作品を観てみたい。その友人はもうすぐ発売されるパトレイバー2作とイノセンスのブルーレイを買うつもりらしいから、またお邪魔しようかしら。


7月18日(金)

 金曜ロードショーで放送された『となりのトトロ』を観た。DVDは持っているのだけれど。

 まだプロ声優を中心に起用していた時代の宮崎作品。日高のり子さんと坂本千夏さんのコンビがいなかったらこの作品はどんな出来になっていたのだろうか。それは置いといて、お母さん役の島本須美さんは監督のお気に入りだということは周知の事実だが、担任役の鷲尾真知子さんと草刈りをしているおじさん役の千葉繁さんは録音演出の斯波重治さんのお気に入りだろう。

 アニメにおける録音演出(録音監督や音響監督などとも呼ばれる)とは、声優のキャスティング、演技指導などを行う非常に重要なポストである。その中でも斯波さんといえば、ベテラン中のベテランであり、『未来少年コナン』『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』などの宮崎作品や、『うる星やつら』『機動警察パトレイバー』『天使のたまご』などの押井作品を手掛け、アニメ界に多大な功績を残した人物である。

 斯波さんの功績といえば、彼に育てられた声優たちが今となっては人気声優ばかりになっているという事実も忘れてはならない。特に有名なのが『らんま1/2』に出演した声優陣だろう。当時はまだ若手声優に過ぎなかった山寺宏一林原めぐみ高山みなみ井上喜久子関俊彦辻谷耕史石田彰などなどが出演し、今となっては誰もが知っている人気声優となっている。現代にあのキャスティングでらんまをリメイクをするとしたら一体どれだけギャラが必要なのか、想像もつかない。

 押井さんは自らが監督を務めたテレビシリーズの『うる星やつら』について、「テレビシリーズのアニメでは画のクオリティを一定に保つことは難しい。だから音響面、声優の演技で高いクオリティを維持することが必要だった。」と語っている。確かに、うる星の声優たちの演技は神がかっている。個性派にして演技派の声優ばかりが勢揃いし、特に千葉繁さんの必笑アドリブと超ハイテンション演技は素晴らしい。これほどまでに声優の力とアフレコ演出によって観る者を魅了するアニメをほかに知らない。

 「この1話のアフレコで寿命が3日縮んだ。」「酸欠で何度も卒倒した。」「口の中が3箇所切れた。」などの逸話を残すほどの入魂の演技を披露する千葉さんは山ちゃんと共に人間国宝声優に指定すべきだ!

 要するに、何が言いたいかというと、顔出しの世界の人間、つまり俳優と呼ばれる人たちばかりがもてはやされている状況に疑問を持って欲しいということである。俺は優れた俳優よりも優れた声優の方がはるかに貴重な存在だと思っている。俳優はいくら優れているといっても、年齢性別容姿によって演じられる役柄は限られてしまう。一方、声優は演技の幅がある人ならば、人だろうが犬だろうが豚だろうが演じることはできるし、性別も年齢もある程度は超越して演じることができる。“大御所俳優”と呼ばれる人はいくらでもいるが、“大御所声優”と呼ばれる人は俳優に比べればはるかに少ない。

 さらに話を拡大すると、顔で俳優を選ぶということはある程度は仕方ないとしても、ミュージシャンを顔で選ぶなんてことは馬鹿らしくてウンザリするのだ。音楽専門チャンネルをたまに見たりすると90%以上が化粧や衣装にばかり気を使ったくだらないPVばかりだ。本当に音楽がやりたいのか、自分をかっこよくキレイにみせるために音楽を利用しているのか、どちらなのかわからないやつらばかりだ。タテタカコさんがボウズ頭にした理由は「髪型を気にして、女であることを意識している自分が嫌になった。」と彼女自身が説明しているし、森田童子がモジャモジャヘアーとサングラスをトレードマークにしていた理由もタテさんと同じようなところにあったと俺は思う。

 “ロックといったら革ジャンとバイク”なんてくだらない。“ヒップホップといったらダボダボ”なんてくだらない。なぜそこまで見た目にこだわらなくちゃいけないんだろうか。見た目が関係ないはずの分野においてまで。

 話を元に戻そう。トトロ、好きです。俺にとってストライクゾーンど真ん中の時代設定とそれを表現し切った精密な背景美術、トトロやネコバスのかわいらしさ、キャラクターの動き、風、音、光の表現、どれをとっても素晴らしい。

 ちなみに、俺は試写会で『崖の上のポニョ』を観た時、この『となりのトトロ』を思い出した。どちらかといえばストーリーは『千と千尋の神隠し』の方が近いのだけれど。背景もトトロとは対照的に絵本のような素朴な絵柄なのだけれど、なぜかトトロを思い出した。どのあたりの要素がそう感じさせたのかはわからないし、言葉にも出来ない。

「自分がなぜその映画が好きなのかを言葉にできないうちは、まだその映画に観る値打ちがあるということだ。それを説明できるようになった時がその映画を卒業する時だ。」
by 押井守